川下りで知られる水郷柳川に隣接する国内有数の家具の産地大川は、460年の歴史を誇り、高い技術と精巧な細工、そして、斬新な発想で日本の家具業界をリードしてきた。この地に本社を構える株式会社関家具は、ドイツのセンベラ社やビーシリック社など、海外の一流家具メーカーと提携し、世界規模で仕入れた家具を、全国の家具小売店に卸す国内有数の家具商社である。SFA導入で営業革新を実現し、次のステージを目指している、同社代表取締役 関文彦様と、常務取締役 猪名富大助様にお話しを伺った。
株式会社関家具がSFAの導入を真剣に検討し始めたのは、ある輸入関係を任せていた担当者の退職がきっかけであった。新任者との業務の引継ぎはきちんとなされていたものの、これまでの取引きに関する細かい情報までは掴めておらず、取引きに支障をきたしてしまったのである。属人営業になりがちだった同社の営業体質をなんとかせねばという思いから、営業の責任者である猪名富常務を中心としたSFA検討チームがすぐさま組織された。
SFAの検討に当たっては、まず、現在導入可能なすべてのSFAソフトの調査を入念に行った上で、国内で販売されているSFAソフトのうちの著名なA社とB社の二社が最終検討に残った。A社のものは、機能が充実しているだけに非常に高価で、自社が使いこなすには内容的にも多すぎるのではないかと判断した。もう一方のB社のものは、キーワード中心の入力方法を採用しており、携帯電話でも気軽に入力できるという操作の簡便性、入力したキーワードをもとに様々な分析ができるという機能性がウリとなっているSFAだった。両社の製品を比べてみると、B社製のものが自社の営業スタイルに合っているように思い、ほぼこちらで決定かに思われた。
そんな矢先、たまたま関社長の持っていた『頑張っても売れない時代の営業システムづくり107のポイント』に紹介されていたNIコンサルティングのSFAが検討チームの目に留まった。早速、NIコンサルティングのスタッフを呼び、どのようなシステムなのかプレゼンテーションしてもらったところ、同社の求めていた機能がそこにはあった。それは、誰が、どのくらい商談に時間を費やしたかというようなことを分析するSFAではなかった。最も大切だったのは、お客様と営業担当者とのやりとり、つまり、商談の実態を共有することであったのだ。この情報共有ができていなかった結果が、今回の担当者の引継ぎに伴うトラブルを招いてしまったのである。このような経緯で、分析主体のSFAではなく、日報に書かれる文章やニュアンスも大事にする日報型SFAであるNIコンサルティングの『Sales Force Assistant 顧客深耕』の導入を決定したのである。
導入当初は、予想通りパソコンが苦手な社員から激しい反発があった。しかし、関社長を始めとする幹部は、社員が日報を書いたら褒め、また毎回きちんとコメントを返し続けた。こうした細かな努力が奏功し、次第にSFAが定着していったのである。すると、これまで社員個人の中で埋もれていた小さなクレームや声がよく聞こえてくるようになり、さらにそれがお互いに情報として共有されるばかりか、一担当者であってもトップと直接やりとりができるということから、社員の営業活動に関する透明性が増し、情報伝達のスピードが向上するというメリットが現れ始めた。
次に現れたメリットは、営業情報の蓄積と共有による顧客企業からの信頼性の向上である。最近、同社が経験したトラブルにまつわるエピソードに次のようなものがある。それは納期遅延に関するもので、トラブル発生時、あいにく担当営業は外出中であった。そこで、代わりに応対したスタッフが「商談履歴を確認しますので、少々お待ちください」と伝え、問い合わせのあった顧客に関する商談履歴を閲覧しながら対応したのである。結局そのトラブルは、顧客側の担当者の勘違いだったということなのだが、このことで顧客企業との関係がより強固になり、「関家具さんは、担当者とのやり取りが全社で共有されている」という安心感を顧客企業に植え付けることができたのである。担当者の退職に伴う苦い経験をした同社にとって、これは非常に良い経験となり、全社に徹底されるべきものとなった。
さらにこのエピソードには副産物がある。日報の書き方に工夫を生み、書くべき情報は何かということを改めて考えるきっかけとなったのである。それまで、一部の社員の間には、日報はとりあえず当たり障りのないことを書いていればよいという風潮だったのだが、この一件によって、日報を適当に書いていると、あとで問題が発生したときに他の社員に迷惑をかけることになる。だが、きちんと書いて、きちんと活用できれば、関家具は、お客様のことをこれだけ考えているのだということがお客様に伝わり、自社の業績アップに貢献できるということを実感させることができたのである。
「家具マーケットは、実は、前途洋々なんです」。今回のインタビューは、関社長のこの一言から始まった。「生活の基本である衣食住のうち、日本では衣食は満たされている。しかし『住』については、『働き蜂のウサギ小屋』と揶揄されることからもおわかりのように、欧米のそれと比べて貧しく、インテリア家具も満たされていない。そこで、これをもっと豊かにするような提案をしていけば、家具の市場はまだまだ広がり、消費者にはもっと豊かな生活をしてもらえると思うんです」と関社長の口調は熱を帯びる。
これまでの家具業界はシェアの取り合いばかりをしていた。しかしながら、関社長の話にもあるように同社は、家具業界はまだまだ発展すると考えている。これから同社が取り組もうとしているのは『マーケットを作る』ことである。そのためには、「自社の社員がお客様のことをいかに考えているか、お客様のためにいかに仕事ができているのか、といった現場の実態を掴むこと。自社の営業活動は市場のニーズに合っているのかという、いわば『魚群を掴む』こと。そして市場の変化のスピードに合わせて、素早くマーケティングとセールスをまとめていくことが不可欠である」と猪名富常務は考える。
関家具はSFAを活用して、これまでのKKDといわれる担当者の『勘・経験・度胸』に依存した属人営業から脱却し、狙った市場に組織的に提案を仕掛ける『属会社』営業に生まれ変わろうとしているのである。
関家具のSFA活用に伴う苦しみは、今後しばらく続きそうである。しかしそれは、これまでの営業スタイルの延長上にある『システム導入』の苦しみではなく、新しい営業スタイルを生み出そうとする、『前向きな生み』の苦しみなのである。
株式会社関家具 | |||
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本 社 | 〒831-0033 福岡県大川市大字幡保 98-7 |
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設 立 | 昭和57年 | ||
代 表 者 | 代表取締役 関 文彦 | ||
事 業 内 容 | 家具の企画・製造・販売・輸入 | ||
資 本 金 | 1億4千万円 | ||
売 上 高 | 82億6千万円(平成15年5月期) | ||
従 業 員 数 | 85名 |