孫子は、言わずとも知れた、最古にして最高の兵法書である。今から約2500年前の中国春秋時代に斉の国に生れ、呉の国王に仕えた兵法家、孫武が著したとされる。
計篇、作戦篇、謀攻篇、形篇、勢篇、虚実篇、軍争篇、九変篇、行軍篇、地形篇、九地篇、用間篇、火攻篇、の十三篇から成る比較的短文の古典であるが、既に司馬遷(前145-前86)の史記には、兵法書として広く読まれたとの記述があり、三国志で知られる魏の曹操は、孫子の注釈書を残している。その後中国や日本のみならず、ヨーロッパにも影響を与え、ナポレオンが孫子を愛読したことは有名である。
孫子の教えを元に、ITツールであるSFAやCRMをどう活用するべきかを整理し、その参考となる部分を抜粋してご紹介します。
軍の以て進む可からざるを知らずして、之に進めと謂い、軍の以て退く可からざるを知らずして、
之に退けと謂う。是を軍を縻ぐと謂う。
軍隊が進撃してはならない状況にあるのを知らないのに、進撃せよと命令し、軍隊が退却してはならな い状況にあることを知らずに、退却命令を出すようなことでは、軍隊のあるべき行動を阻害し、拘束して いるに過ぎない。
営業プロセスの標準化と見える化で現場を知る
SFA・CRMによって、現場の状況を見える化し、経営者・幹部が正しい指示、命令を発しなければならない。
現場の状況をつかんでもいないのに、あれこれ指示をすることは、営業部隊を混乱させ、麻痺させることになる。
時代の変革期には、トップのリーダーシップが求められるが、そのリーダーシップが現場・現実と乖離したものであったのでは価値はないだろう。
彼を知り己れを知らば、百戦殆うからず。 彼を知らずして己を知らば、一勝一負す。
彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし。
軍事においては、相手の実情を知って自己の実情をも知っていれば、百たび戦っても危険な状態にはならない。相手の実情を知らずに自己の実情だけを知っていれば、勝ったり負けたりする。相手の実情も知らず、自己の実情も知らなければ、戦うたびに必ず危険に陥る。
顧客を知り営業現場を知るIT化は必然である
SFAやCRMは、顧客の動きやニーズを知り、それに対する自社営業部隊の動きをつかむことで、日々そのギャップを埋める行動修正を行う仕組みであり、導入は必然である。このSFAやCRMを営業部隊の行動管理だと誤認して、彼を知らずして己を知るのみであれば、結果として意味のある指示、命令ができないことになる。
顧客のことを知らないのみならず、自社の営業部隊の動きすらつかまず野放しにしているようでは論外である。
SFAやCRMに失敗する企業は、顧客のことを知って自社の現状を知らないか、自社の営業担当者の動きはしっかり管理しておきながら顧客のニーズをつかんでいないか、のパターンが多い。片方を知って、分かったつもりになっている企業である。
善く戦う者は、不敗の地に立ちて、敵の敗を失わざるなり。是の故に勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、 敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む。
勝利する軍は、まず負けない態勢をとり、勝利を確定しておいてから、その勝利を予定通り実現しようと戦闘するが、敗北する軍は、先に戦闘を開始してから、その後で勝利を追い求めるのである。
日報は事後報告書ではなく、事前に考える計画書にしなければならない
実際の営業行動に移る前に、次回予定、行動計画を明示し、それに対して上司や部下が智恵を出し合い、戦い方(商談ストーリー)を描くことで、実際の商談を有利に進めることができる。ダメな営業とは、とりあえず成り行きや惰性で訪問し、その場で何とかしようとその場凌ぎをすることであり、その時点で結果は決まっていると言える。商談が終わったその日には日報入力しながら、次回の予定を考え、更に翌日予定している商談については、改めてどういう組み立てにするかを考え、事前準備をしておきたい。考えなければ書けない日報は、営業担当者を「善く戦う者」に育てる。
勝者の民を戦わしむるや、積水を千仭の谿に決するが若き者は、形なり。
戦いに勝利する者は、人民を戦闘させるにあたり、満々とたたえた水を深い谷底へ一気に決壊させるような勢いを作り出す。これこそが勝利に至る態勢(形)である。
ターゲットダムの蓄積が善循環を生む
SFAやCRMによって、見込客を溜め込み、見込案件を蓄積し、人脈情報を貯め、クレーム情報を共有し、営業担当者、サービス担当者の智恵を蓄積することで、ダム(積水)を作り、成功の善循環を創出することが、営業の勢いを作るためには必要である。
SFAやCRMは導入してすぐに効果が出るというものではなく、情報をコツコツと貯めていくことで、成果に結び付けるものである。功を焦り、評価を急いでは、その真価を発揮する前に頓挫することになりかねない。
衆を治むること寡を治むるが如くするは、分数是れなり。
衆を闘わしむること寡を闘わしむるが如くするは、形名是れなり。
大兵力を統率するのに、小兵力を統率しているかのように整然とさせることができるのは、部隊編成と組織運営の技術があるからである。大兵力を戦闘させるのに、小兵力を戦闘させているかのように整然と統制がとれるのは、旗や鉦、太鼓の合図など指令や情報の伝達がうまくいっているからである。
情報共有、情報伝達はいつの時代も組織運営の基本である
全社営業体制を作るためには、部門間や拠点間で生じる矛盾や摩擦を乗り越える組織体制を作ることが必要であり、そうした組織で統制のとれた動きをするためには、情報を「見える化」し、情報伝達スピードを上げ、必要な情報がきちんとやりとりされる仕組みを作ることが欠かせない。
SFAやCRM、その基盤となるグループウェアといったITツールはそのための道具である。企業における情報共有や情報伝達(見える化)は、ある時点での横方向(部門間・拠点間・人間間)を考えるだけでなく、過去から現在、未来へとつなぐ時系列的な共有や伝達を考慮しなければならない。つまり、将来の部下や同僚、後輩たちへの引継ぎ情報の「見える化」である。したがって、社員数が現時点で少ないからと言って、ITツールが必要ないということにはならない。仮に今3人の社員であっても、10年、20年のスパンを考えれば、50人、100人の情報共有(見える化)が必要になるのだ。
激水の疾くして石を漂わすに至る者は、勢なり。鷙鳥の撃ちて毀折に至る者は、節なり。
是の故に善く戦う者は、其の勢は険にして、其の節は短なり。勢は弩をはるが如く、節は機を発するが如し。
水の流れが激しくて石をも漂わせるに至るのは、その水に勢いがあるからである。猛禽が急降下して一撃で獲物の骨を打ち砕くまでに至るのは、節目を突くからである。したがって巧みに戦う者は、その戦闘に突入する勢いが溢れんばかりで険しく、その勢いを放出する節は一瞬の間である。勢いを蓄えるのは弩の弦を一杯に引くようなものであり、節は瞬間的に引き金を引くようなものである。
商談進捗度と受注確度によって商談の成功ポイントをつかむ
営業部門には勢いとスピードが必要であり、それが成果に結び付くにはタイミングが重要である。
顧客のニーズを見定め、商談の進捗を見極め、ここぞという時に動かなければならない。商談の進捗度や案件の先行管理は、営業活動における節目を明らかにするものである。営業担当者が真面目にやっているかとか、何件訪問しているか、といった行動管理的な視点でしか見ていないと、顧客不在の管理となり、結局、商談のポイントを見逃すことになりがちである。
上司(日報のコメントを打つ人)の役割は、永年の経験と蓄積された知識、身につけた智恵によって、節目(ポイント)を見つけ、絶好のタイミングで部下の勢いを増してやることである。部下の行動をチェックすることでも、結果を云々して叱りつけることでもなく、新しい言葉で言えば、コーチングが求められているのだ。
善く戦う者は、之れを勢に求め、人に責めず。故に能く人を択びて、勢に任ず。勢に任ずる者の、其の人を戦わしむるや、木石を転ずるが如し。木石の性は、安ければ則ち静まり、危ければ則ち動き、方なれば則ち止まり、円なれば則ち行く。故に善く人を戦わしむるの勢い、円石を千仭の山に転ずるが如き者は、勢なり。
巧みに戦う者は、戦闘に突入する勢いによって勝利を得ようとし、兵士の個人的な勇気や力に頼らずに、軍隊を運用する。そこで巧妙に戦う者は、人々を選抜し適所に配置して、軍全体の勢いに従わせるようにする。兵士たちを勢いに従わせる者が、兵士たちを戦わせる様は、まるで木や石を転落させるようなものである。木や石の性質は、平らな場所に安定していれば静止しているが、傾斜した場所では運動しはじめ、方形であれば止まっているが、円形であれば転がる。したがって、兵士たちを巧みに戦わせる勢いとは、丸い石を千仭の山から転落させたように仕向けることであり、これが戦闘の勢いというものである。
属人的能力に頼った成果は組織全体を弱体化させる可能性を孕む
営業力を強化していくためには、営業担当者個々人のやる気や能力に頼るのではなく、全社営業体制による「営業組織力強化」を進めなければならない。そのために必要なことが、顧客情報・商談情報の共有によるチームセリングと属人ノウハウを共有する営業ナレッジ・マネジメントである。そのために必要なツールがSFAでありCRMである。
そしてそのツールを使って、一つの成功事例が次の成功事例を生み、一人の智恵がまた別の人間の智恵を生むという全社営業体制の勢いを作っていくことが重要である。
一部のトップ営業が一般の営業担当者の十倍、百倍の成果を生むことがあるため、その属人的な能力に頼った組織運営をしてしまいがちであるが、組織を永続させ、企業を存続させて、顧客に対し長期安定したサービスやサポートを実現するためには、普通の人材が当り前のことを当り前に行なって成果を生む体制なり仕組みを構築しなければならない。
卒を視ること嬰児の如し。故に之と深谿にも赴く可し。卒を視ること愛子の如し。故に之と倶に死す可し。厚くするも使うこと能わず、愛するも令すること能わず、乱るるも治むること能わざるは、譬うれば驕子の若くして、用う可からざるなり。
将軍が兵士たちに注ぐ眼差しは、赤ん坊に対するようである。であればこそ、いざという時に兵士たちを危険な深い谷底へでも引率できるのである。また将軍が兵士たちに注ぐ眼差しは、可愛い我が子に対するもののようでもある。だからこそ、兵士たちと戦場で生死を共にすることができるのである。
しかし、手厚く保護しても使役することができず、可愛がるだけで命令もできず、軍規を乱しても統制できないようでは、譬えるならば、驕慢なドラ息子のようなもので、ものの役には立たない。
上司のコメントは心の報酬であり、
入力を怠る営業担当者を許してはならない
SFAやCRMにおいて、営業担当者が日々入力する日報情報に対し、上司がコメントを返すのは、部下の活動に対する「心的報酬」であり、部下に対する関心の表明である。また、日本のほとんどの営業は、即戦力のフルコミッション営業ではないため、指導育成の必要がある。日々の営業現場の生きた事例を基にしたOJT指導は非常に有効である。
しかし、どんなに可愛い部下であり、目先の業績を上げているような部下であったとしても、やるべきことをやらなかったり、規律を乱すようであれば、組織全体としてはマイナスであり、そういう存在を決して許してはならない。目先の業績が上がって、一時は結果オーライで喜んだとしても、その結果クレームを生み、企業としての信用を失墜したのでは元も子もない。時代の変化は、企業に「結果オーライ」を許してはくれないのだ。
明主・賢将の、動きて人に勝ち、成功の衆に出づる所以の者は、先知なり。
先知なる者は、鬼神に取る可からず。事に象る可からず。度に験す可からず。
必ず人に取りて敵の情を知る者なり。
聡明な君主や智謀に優れた将軍が、軍事行動を起こして敵に勝ち、抜群の成功を収める要因は、予め敵情を察知するところにこそある。事前に情報を知ることは、鬼神から聞き出して実現できるものではなく、神仏の事象になぞらえて知ることができるものでもなく、天道の理法と突き合わせることでつかむわけでもない。そうした神秘的な方法によってではなく、必ず人間の知性の働きによってのみ獲得できるのである。
先に知る。先に考える。先に用意する。
日頃の地道な活動の積み重ねによって顧客を知ることが機先を制する方法である。
日々蓄積した顧客の声や商談の内容を元に顧客を知り、それによって事前に策を練る。日報を計画書として活用し運用することで、上司の智恵を事前に引き出し、最善の準備を怠らない姿勢こそが成果を生むのであって、行き当たりバッタリの神頼みでは、確実な成果は期待できない。事前に予測した取れるべき注文なり契約が取れることにこそ価値があるのであって、取れないと思っていたものが取れたり、取れるだろうと思っていたものが取れなかったりすることは、それがトータルでは結果オーライの目標達成を実現していたとしても、決して油断し、その結果に甘んじてはならないものである。
夫れ、未だ戦わずして廟算するに、勝つ者は算を得ること多きなり。
未だ戦わずして廟算するに勝たざる者は算を得ること少なきなり。
算多きは勝ち、算少なきは勝たず。況んや算なきに於いてをや。
そもそもまだ開戦していないうちから、廟堂で策を練って勝利を得るのは、机上の思索や勝算が相手よりも多いからである。まだ戦闘が始まっていない時に、廟堂で作戦を立案して、勝ちを確信できないのは、勝算が少ないからである。勝算が相手よりも多い側は、実戦でも勝利するし、勝算が相手よりも少ない側は、実戦でも敗北する。ましてや勝算が一つもないというに至っては、何をかいわんやである。
机上(デスクトップ)で勝ちがイメージできないのに、実戦(営業現場)で思うように事が進むはずがない。
訪問してみなければ分からない、やってみなければ分からない、と事前の計画や仮説構築を疎かにする営業部隊は、偶然にうまく行くことはあっても、継続的、安定的に成果を得ることはできない。またこのような行き当たりばったりの営業活動は、営業担当者を育てることができず、成り行き営業マンを作り出してしまうものである。
事前の検討や思索を現実の現場に落とし込むSFA・CRMによって、廟算の精度を上げ、勝算を大きくして、現場の営業担当者に自信を与えなければならない。自信は「自信を持って行け」と言って持てるものではなく、自らを信ずるに足る準備をすることによってのみ持てるものである。
古の所謂善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。
故に善く戦う者の戦つや、智名無く、勇功無し。
兵法家が考える優れた者とは、容易に勝てる態勢の敵に勝つ者である。それ故、優れた者が戦う時には、世間を驚かせるような奇抜な勝利もなく、智将だとの名声もなく、勇敢な武功もない。
事前に「お役に立てる」確信を持った顧客を訪問すべきであり、得意分野に絞って営業活動を展開すべきである。難しい顧客や無理な新規開拓で大手柄を立てようと思ってはならない。
どんな顧客でも良いから、買ってもらおうとするような無理をする営業は、時に「大手柄」を生んだり、その涙ぐましい努力は賞賛されることがあるかもしれないが、多くの場合、お客様に喜ばれることも少なく、大きな成果も得ることができない。
それよりも事前に顧客のニーズをつかみ、事前の調査や仮説検討、上司?部下の事前検討を行って、お役に立てる確信を持てた先(見込客)に訪問することに時間をかけた方がよい。その結果は、「取れるべくして取れた」受注であり「受注して当然」の注文であるかもしれないが、こうした「小事」と「当り前」の積み重ね(積小為大)こそが成功に導くリーダーが目指すあるべき姿である。
先に戦地に処りて、敵を待つ者は佚し、後れて戦地に処りて戦いに趨く者は労す。
故に善く戦う者は、人を致して人に致されず。
先に戦場に着いて敵軍の到着を待ち受ける軍隊は余裕を持って戦うことができるが、後から戦場にたどり着いて、休む間もなく戦闘に駆けつける軍隊は苦しい戦いを強いられる。したがって戦上手は、敵を思うがままに動かして、決して自分が敵の思うままに動かされるようなことはしない。
事前に考え、先回りしているから余裕が生まれ、
こちらのペースで主体性を持って商談を進めることができる。
過去の商談履歴や事前のストーリーによって、顧客のことを知り、顧客のニーズをつかんで、必要な準備をしているから、商談においても余裕が生まれ、顧客が考えていないことまでも導くことができる。ダメな営業担当者は、ロクに顧客のことを調べもせずに、アポイントぎりぎりに駆け込んで、汗だくになりながら、顧客に良いようにあしらわれて終わりである。顧客を訪問してから「何かないですか」「お困りのことはないですか」と尋ねているようでは困る。「このようなことがあるのではないですか」「こうしたらもっと良くなるのではないかと思うのですが」と営業側が主体性を持って商談を進めて行かなければならない。日報には「次回予定」が必須であり、事前に考える「計画書日報」にしなければならない。
之を策りて得失の計を知り、之を作して動静の理を知り、之を形して死生の地を知り、
之に角れて、有余不足の処を知る。
敵の意図を見抜いて、敵の利害損得を知り、敵軍に揺さぶりをかけて、その行動基準をつかみ、敵軍の態勢を把握して、その強み弱みを明らかにして、敵軍と小競り合いをしてみて、優秀な部分とそうでない部分をつかむのだ。
顧客とのやり取りを蓄積して、その履歴を読み返すことで、顧客の利害得失と、価値判断をつかんで営業すれば、必ず成果を生み出す。
過去の商談履歴や事前のストーリーによって、顧客のことを知り、顧客のニーズをつかんでいるから、商談においても余裕が生まれ、顧客が考えていないことまでも導くことができる。ダメな営業担当者は、ロクに顧客のことを調べもせずに、アポイントぎりぎりに駆け込んで、汗だくになりながら、顧客に良いようにあしらわれて終わりである。顧客を訪問してから「何かないですか」「お困りのことはないですか」と尋ねているようでは困る。「このようなことがあるのではないですか」「こうしたらもっと良くなるのではないかと思うのですが」と営業側が主体性を持って商談を進めて行かなければならない。